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特集

ダートを知る

昨年末に「全日本的なダート競走の体系整備」が発表され、“ダート改革元年”ともいうべき2023 年は、これまで以上にダート競馬に注目が集まることとなりそうです。今号の特集は「ダートを知る」。
前半はグリーンチャンネル『先週の結果分析』に出演中の日刊競馬・大川浩史記者に「勝ちタイムと各コースの深い関係」を後半は種牡馬ウォーキング動画の撮影ディレクターを長年務める美野真一氏に注目のダート種牡馬を挙げていただきました。

【タイム分析が意味するところ】

グリーンチャンネルで放送されている「先週の結果分析」のメインコンテンツは「タイム分析」。JRAの平地全レースのタイムの「価値」を割り出して分析する。
各コースの距離ごとに基準タイムを設定し、馬場状態や風向きや風速によって変化する時計の出方を馬場差として算出し、『走破タイム-基準タイム-馬場差』という計算式で求められる数値が小さいほど優秀、となる。そしてその数値によって「タイムランク」を出す、というのがタイム分析の主旨となる。
なお、序盤や中盤のペースが遅すぎると全体の走破タイムも遅くなり、その場合の走破タイムは真の価値を表していないので、「ペース補正」が入ることもある。そのペース補正も含めたものが「完全タイム差」であり、完全タイム差を基にタイムランクを出す。

芝よりもダートの方が好タイムの信頼度が高い

直線が長いコースの芝では、1日のレースの大半にペース補正が入ることもある。一方、ダートは芝と比べるとペース補正が入ることは圧倒的に少ない。ペース補正が入るとタイムの価値の判断ができなくなるわけではないが、ペース補正が入っていないタイムの方が信頼度は高い。
また、芝は開催の進行や仮柵の移動によって内が有利、不利といったトラックバイアスが発生しやすく、タイムより通ったコースの方が重要、というケースもある。地方競馬では内外で砂の深さが異なったりするが、JRAのダートではそのようなことはまずない。
よって芝よりダートの方が「タイムランク」がその後の成績に直結しやすい。

【タイムランクについて】

タイムランクはAからEの5段階と、前半や中盤のペースが遅すぎてペース補正を入れても判定不能なSL(スロー)の6つがあり、AランクとBランクを高レベルレースとする。
ダートの場合、Aランクは1500㍍以下では基準より0秒8以上速いタイム、1600~1800㍍では基準より0秒9以上速いタイム、1900㍍以上では基準より1秒0以上速いタイム、となっている。
1 クラス上の基準タイムは1200㍍で概ね0秒6、1800㍍で概ね0秒8速くなるので、A ランクで勝ったということは、1つ上のクラスの平均的な勝ちタイムより優秀なタイムで勝ったということになる。
したがって1つ上のクラスもすぐに勝てる確率は高く、2つ上のクラスでも通用する可能性がかなりある。

【タイムランクで判断できる将来性】

特にその後の成長も見込める2歳・3歳馬は、1勝目がAランクだと2歳・3歳限定のオープン、そして3歳夏以降の3歳以上2勝クラスで通用する確率が高い。
ダートの新馬戦・未勝利戦をAランクで勝った現4歳世代(2019年生まれ)は19頭いて、3歳終了時点でその後0勝なのは3頭だけ。しかもその3頭は1勝目を挙げた後に0~2走しかしていない。これら3頭も無事に復帰すれば1勝クラスは勝てるだろう。その後1勝は5頭、2勝は9頭、3勝は2頭であり、19頭中11頭は3歳のうちに2勝クラスかオープンを勝っている。
重賞勝ちはカフジオクタゴン(レパードS)とノットゥルノ(ジャパンダートダービー)だけだが、3歳限定のダート重賞は少ないし、3歳のうちに年長馬相手にダート重賞で通用するケースは、世代を問わず少ないので仕方がない。
2歳のうちにA ランクで勝った馬ではなく、3歳未勝利戦が終わりに近づいた8月下旬に(初ダートで)Aランク勝ちしたウィルソンテソーロでさえ、その後に連勝している。ダートの新馬・未勝利戦をA ランクで勝った馬の「その後」はかなり期待できる。
現3歳世代は2歳のうちにA ランクで勝った馬が少なく、ヤマニンウルス、ペリエール、エンペラーワケアの3頭しかいないが、ペリエールは新馬(Aランク)、1勝クラスを連勝した。続く全日本2歳優駿は1番人気で3着だが、この時の1着デルマソトガケは1勝目がB ランク。2着オマツリオトコは2勝目(1勝クラス)がB ランク。ダートの新馬、未勝利、1勝クラスを高ランクで勝った馬が上位を占めた。
また、過去10年のダートのJRA・GⅠ勝馬のべ20頭のうち、1勝目がダートだったのは17頭。そのうち11頭は1勝目がAランクかBランクだった。
1勝目がダートでAランクでもBランクでもなかった6頭のうち、グレープブランデー、サウンドトゥルー、クリソベリルは2勝目(500万下)がAランクやBランクだった。
サンビスタのような、1勝目がEランクで2勝目も高ランクではなかった馬もG Ⅰを勝っているように、1勝目のタイムランクで将来のことがすべて分かるわけではないが、1勝目が高ランクだった馬の将来性が総じて高いことは間違いない。

高ランクで初勝利を挙げたダート馬の多くがその後にハッキリと頭角を現している
タイムの違いは砂の質ではなく各コースの形状に大きな影響を受けている

【基準タイムから分かること】

では、そもそもの基準タイムとは、どのような視点で決まるのだろうか。
同じ距離でもコースによって基準タイムは異なる。このことに対して「砂が軽い/重い」と評する向きもあるが、JRAの各場のダートに関して、砂質の違いはほとんどない。
基準タイムの違いが発生する主な要因は、砂質や砂厚の違いではなくコースの形状。具体的には「直線の長さ」「コーナー半径」「スタート地点から最初のコーナーまでの距離」「坂の有無や勾配率」で、もちろん、スタート地点が芝なのか、すべてダートなのかも影響する。
それでは、具体的なコースとタイムの関係を中距離と短距離に分けて見ていこう。

【ダート中距離の基準タイムの違い】

ダート1800㍍はJRA10場中5場で行われているが、基準タイムが最も速いのが京都で、最も遅いのが中山(※ 2023 年にグランドオープンとなる京都競馬場だが、ダートコースの形状に大きな変更はない)。
京都コースの特徴は「直線平坦」と「3~4コーナーが緩い」こと。ペースアップする3~4コーナーが緩いのでスピードが出やすく、直線が平坦なので失速しにくい。そのため、速いタイムが出やすい。また、スタートから1コーナーまでが短いので、先行スピードがかなり重要。先行してしまえば後半に失速する要因が少ないので、「内枠の先行馬有利」が顕著なコース。スピード優先の「コース形状」であり、スピード優先の「砂質」ではない。
京都の次に基準タイムが速い新潟は完全な平坦コースだが、コーナーがきつい。3~4コーナーでスピードを上げすぎると外にふくらむので、京都よりはタイムがかかる。先行馬がコーナーで息を入れやすく、直線で失速しにくいので先行有利。
最も基準タイムが遅い中山は、直線に急な上り坂がある。1800㍍はそこを2回通過するのでタイムが遅くなる。また、コーナーも新潟ほどではないがきつい。「小回り」とされる札幌よりも実はきつい。中山ダートは時計がかかるのでパワーが必要、とよく言われるが、力の要る馬場をこなすためのパワーが必要なのではなく、2度の急坂をこなすパワーが必要だ。中山ダートの馬場状態そのものがパワーを必要とするものではないことは、1200㍍の時計の出方を見れば分かる(後述)。
ダート1700㍍は4場で行われているが、基準タイムが最も速いのは小倉。小倉コースは2コーナー出口から4コーナー出口までが下り坂で、直線は平坦。前半に上り坂はあるが時計の出方には影響がない部分であり、勝負どころからゴールまではひたすらスピードが出やすいコース形状になっている。
最も時計がかかるのは函館で、似たようなコースだと思われがちな札幌と0秒7も違う。
函館ダートは1周約1475㍍、直線約260㍍。札幌ダートは1周1487㍍、直線約264㍍と、表面上のスペックは近いが、実は中身が異なる。
札幌はほぼ完全な平坦コースで、函館はそれなりにアップダウンがあるという点も異なるが、函館の直線は平坦どころか下り坂。にも関わらず、札幌より時計がかかる。
実は「直線の長さ」という表記がクセモノ。この場合の「直線」は4コーナー出口からゴール板までのことであり、4コーナー出口から1コーナー入口(2コーナー出口から3コーナー入口)のことではない。

札幌のゴール板はかなり1コーナーに近い所にあり、それによって函館と同等の「直線の長さ」を確保しているが、4コーナー出口から1コーナー入口までの距離は函館の方がだいぶ長い。
コース全体に占める直線部分の割合は函館の方が大きいのに1周距離は変わらないということは、札幌はコーナーの部分が長い。つまりコーナーが緩いので3~4コーナーでスピードに乗りやすく、そこでスピードに乗れば平坦な直線でも失速しにくいので速いタイムが出る。また、スタートから1コーナーの短さや3~4コーナーの緩さ、平坦な直線と京都ダート1800㍍との共通項も多く、京都と並ぶスピード優先コース。滞在競馬との関連もあるが、牝馬が活躍しやすいコースでもある。
福島ダート1 7 00㍍の基準タイムは札幌と函館の中間。1周約1444㍍は札幌や函館より短いが、直線約295㍍。コーナーはきついが直線は思われているほど短くないので、函館よりは速い時計が出る。直線の長さは中山(308㍍)と大して変わらないが、「小回りコースで先行有利」という意識が強いので3コーナーからの仕掛けが激しくなり、意外に差しが決まる。

【ダート短距離の基準タイムの違い】

1800㍍の基準タイムが最も速い京都、2番目に速い新潟と並び、1800㍍の基準タイムが最も遅い中山が1位タイ。中山ダートは「1 8 00㍍は時計がかかるが、1200㍍は速いタイムが出る」というコースだ。中山ダート1800㍍はオールダートで2度の坂越えがあるが、中山ダート1200㍍は芝からのスタートで、スタート地点から4コーナーまでずっと下り坂。この違いがタイムに出る。「中山の馬場そのものが力の要る、時計のかかるもの」ではないことが分かる。
1位タイの新潟ダート1200㍍も中山と同じ芝スタート。なおかつほぼ平坦なので中山より速いタイムが出ても不思議ではないが、コーナーがきつい分で差し引きされている。同じく1位タイの京都ダート1200㍍はオールダート。さらにスタートから3コーナーまでが短いので中山や新潟と比べて前半のラップの速さには限界があるものの、緩い3~4コーナーと平坦な直線でスピードが落ちにくいため、芝スタートの2コースと同じ基準タイムになっている。この3コースは時計の出方は「結果的に」同じだが、コース形状はそれぞれ異なる。
阪神ダート1200㍍、中京ダート1200㍍はオールダートで直線に坂があるため京都より時計がかかる。阪神より中京の方が時計がかかる理由は、直線の高低差の違いによる。福島にはダート1200㍍はないが、ダート1150㍍がある古馬1勝クラスの基準タイムは1分08秒5。強引に1200㍍に換算すると1分11秒4(実際にはもう少し遅いはず)で、かなり速いタイムが出るコースであり、その最大の理由は芝からのスタート。
ただし、長く芝の部分を走れる外枠が有利、という傾向はない。ダート短距離(ワンターン)の枠順の有利不利を決定する最大の要因は「スタートから3コーナーまでの距離」で、長ければ長いほど外枠有利、というより、内枠が不利になる。スタート後の直線が長いほど、外枠から先行して内に寄せる場合のロスが小さいので、このようになる。中山ダート1200㍍が外枠有利(内枠不利)である理由は、スタートから3コーナーまでが長いからであり、芝を走れる距離はあまり関係ない。
以上、基準タイムとともに各ダートコースの特徴を具体的に見てきたが、最後に東京のダートコースはあまりにも特殊であるというところを触れておきたい。

【東京ダートはあまりにも特殊】

現在の東京ダートで多く行われる距離は1300㍍、1400㍍、1600㍍、2100㍍。他の競馬場と時計の出方を単純に比較できる距離が1400㍍しかない。この時点で特殊なコースだと言えるが、他場のダート1400㍍(中京、京都、阪神)はすべて芝からのスタートであり、オールダートの1400㍍はJRAでは東京にしかない。
芝スタートが苦手でダート1400㍍がベスト、という馬にとっては、唯一の力を出せる舞台。他の距離も(JRA の中では)あまりにも特殊な存在で、東京ダートでの成績は他場に反映されにくい。夏の東京から福島への開催変わりは、具体的な例を挙げると東京ダート1600㍍と福島ダート1700㍍がリンクしにくい。また、東京からの開催変わりで必要以上に「小回り・先行有利」を意識するがために、福島の、特にダート1700㍍ではイメージ以上に差しが決まる。

美野真一氏がダートで注目する種牡馬たち

芝で活躍している馬は走りが前輪駆動ですが、ダートで活躍している馬は四輪駆動で特に後ろ脚の踏み込みが深いのが特徴です。車でも砂浜を走るには四輪駆動の車の方が走りやすいですから、アスリートの馬は尚更です。現在、ダートで活躍している血統はゴールドアリュール系、ストームキャット系、エーピーインディ系が多いです。芝ダート兼用でキングカメハメハ系も重要です。

注目系統と特徴(※成績はすべて2022 年末現在。)

● ゴールドアリュール系

父ゴールドアリュールは2018・19年のJRAダート部門のリーディングサイヤー。後継種牡馬も多く、スマートファルコン、エスポワールシチー、コパノリッキーはもう産駒が走っていて結果も出ています。これらはダート向きの種牡馬だと思いますが、芝でもと思える馬がいて、順に並べるとエピカリス、ゴールドドリーム、クリソベリル、スマートファルコン、エスポワールシチー、コパノリッキーになります。芝でもと思う点は主に手先の軽さです。今の日本の芝は時計が速くて瞬発力を求められるので前膝より下が軽くなくてはいけません。細くても軽ければ切れる脚を使えますが、その分消耗も激しくレース間隔が長くなりがちです。エピカリスは母の父のカーネギーの特徴が出ていてとても品格のある馬です。ゴールドドリームもエピカリスほどではないですが軽い動きをします。配合次第では芝の活躍馬が出ても不思議ではないと思います。クリソベリルは立ち姿を撮影する時に後ろへバックさせるとめちゃくちゃ柔らかい動きをします。大きい割に俊敏で運動神経がいい馬です。

● ストームキャット系

ダートで走っているのはヘニーヒューズの系統です。ヘニーヒューズ自身は体型が少し背たれですが全身を使ってワイルドに歩きます。我が強いですが悪癖はなく撮影しやすい馬です。後継種牡馬はアジアエクスプレスとモーニンが有力です。アジアエクスプレスは馬体が父に似ていますが性格は繊細で怖がりな面があります。モーニンは真逆のタイプで激しい燃える気性です。こちらは距離が課題になりそうです。また、ストームキャット系は芝向きの馬も輩出します。特にブリックスアンドモルタルは手先も軽くてしなやかな動きで芝向きです。GioPonti産駒のドレフォンは初めて撮影した時にディープインパクト産駒の繁殖と配合すれば芝の馬が出ると思いました。セレクトセール用の当歳馬を撮影した時は芝の方がいいのではと思いました。皐月賞馬ジオグリフを出しましたが半数はダートでの勝ち上がりで芝ダート兼用です。

● エーピーインディ系

● デピュティミニスター系

● キングカメハメハ系

●ドバウィ系

エーピーインディ系は気で走るタイプが多いので馬体が良ければ走るとは限りません。Tapitやパイロやシニスターミニスターなど。カリフォルニアクロームはこの系統ではおとなしいです。マジェスティックウォリアーは男らしい性格をしています。産駒は揉まれ弱さがありますが安定している方です。芝ダート兼用のキングカメハメハ系は真面目に能力を出し切るのが特徴です。ホッコータルマエはダートで活躍しましたが手先が軽くて軽いダートの方がいいイメージです。初年度産駒が活躍しているマインドユアビスケッツは直近の撮影では本性を現し、やんちゃで大変でした。競走馬は激しさがある方が走るので産駒の活躍は納得できます。特にダイワメジャーとの配合は走っています。他にはドバウィの系統に注目しています。マクフィは体高が低めですが抜群の運動神経をしています。ベンバトルは芝で走りましたが産駒は芝ダート兼用になりそうです。

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